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RGPジャパン

グローバルシェアードサービス II章



島田田 嗣仁: Tsuguhito Shimada

RGP日本/韓国 カントリー・マネージャー













Ⅱ章 事例にみる GSSを機能させるためのポイント 

日系企業は実際にどのステージにいるのであろうか。また、比較的先進的に展開しているグローバル企業と比べた場合、何が実現のための根本的な課題となっているのであろうか。更にそれらの課題を解決するためポイントはどのようなものであろうか。

1.日系企業のシェアード化状況

かなり数の日系企業が収益の源泉を求めて、海外に進出しているが、先進的なグローバル企業と比較すると、ほとんどの日系企業の海外のシェアード化は①や②の段階に留まっている。

事例を確認して見ると、日立グループでは、アニュアルレポート(2012年3月期)において、『「Hitachi Smart Transformation Project」を通じたコスト構造の改革(6ページ、7ページ)』に以下のように表現されている。

… 間接コスト面では、これまで個々の経営単位で独立に実施してきた管理業務を横断的に見直し、重複する共通業務の集約・標準化やシェアードサービスの拡大を地域ごとに推進しています。

更に、「■主なコスト低減施策 の間接コスト」のイラストには、以下のように記述されている。

  • 業務の標準化と、IT基盤の統一化によるシェアードサービスへの集約とグローバル化

  • 賃借料の削減:施設の一元管理など

以上の表現からは、①のSSCや②のRSSCを確立すべく注力している段階であると察することが出来る。

また、東芝グループでは、アニュアルレポート(2012年3月期)において、『グローバル化への取り組み 「④地域統括強化と研究開発のグローバル化加速」(19ページ)』に以下のように表現されている。

… 当社は、米州、欧州、中国、アジアの4地域に海外総代表を置き、地域戦略機能に加え、ガバナンスの強化にも取り組んでいます。

更に、「地域統括機能強化」のイラストには、以下のように記述されている。

  • 地域戦略機能強化

  • ガバナンス強化

    • 情報セキュリティ、リスクコンプライアンス

    • 地域内人材活用強化

  • シェアードサービス推進、機能分業

以上の表現からは、②のRSSCを確立すべく現在注力している段階であると察することが出来る。

これらの事例に限らず、ほとんどの日系企業は、①から②の段階であり、③段階まで確立出来ている企業は今後増加することが考えられる。外資系企業が海外で展開する場合も、同様に苦労をしているが、比較的進展している点は、実現のための推進力である。この推進力の根底には、グループ企業でのガバナンス基盤が大きく関連しているのである。 このガバナンス基盤は、シェアード化には、①SSC、②RSSC、③GSSCのいずれであっても深く関連するが、高度なGSSCに進展するほど、影響が大きくなる。これは、単なる業務効率の集約化だけではなく、高付加価値の追求の割合が多くなればなるほど、多くの企業や部門を巻き込むため、相応の強力な推進力が必要となるためである。

日系企業の大企業には、事業部(カンパニー)が10以上あり、ビジネス形態も、B to BもB to Cもあるコングロマリットもあれば、製品カテゴリーは多いものの、基本的にB to Cに限定されている企業もある。ビジネス形態が複雑であるほど、ガバナンスが効かせにくいのだが、それでも、概して、日系企業は、ガバナンスが確立されてないか、効かせにくい状況にある。また、ガバナンスを確立するためのアプローチとして、まずは、コード体系や基幹システムなどハードウエアとしての標準化に着手するが、それだけをゴールとしている企業が多くみられる。ソフトウエアとしての「グループ ガバナンス」については、経営層を含めた検討が見送りされ、真の意味でのシェアード化は程遠い企業が多いのである。 このガバナンスはどのような局面で強弱が現れるのであろうか。極端に複雑なコングロマリットを想定したケースではなく、ここではビジネス形態が多岐に亘らず単一である企業を想定して、その例について触れておきたい。(添付D: ガバナンス基盤の差異)。


2.ガバナンス基盤の差異

日系企業が本社のガバナンス基盤が構築出来ていないことによる局面は、A.「投資判断」、B.「人材配置」、C.「シナジー強化支援」、D.「本国報告」において表出することがある。(図D: ガバナンス基盤の差異)


A. 「投資判断」 初期投資の段階で、投資元である事業部が意思決定を行うが、ほかの事業部との連携は基本的に考慮されない。コーポレートからのアドバイスや指導もないに等しい。このため、現地では、レバレッジできる経営資源の活用がなされず、無暗に会社数が増加する傾向がある。当然このような状況において、今からコーポレート部門がグループを代表して集約化し巻き取ろうとしても、すでに現地の景色は変わっており、実質的にガバナンスを効かせることが出来ないのである。冒頭にも示したが、バックオフィスの効率化は、避けて通れない事なので、早めにガイドラインをコーポレートが提示し、進出あるいは、M&Aの統合後の支援として、標準化しておくことで、早期に効果を創出できるよう目指すべきである。このような発想がなければ、結局は、連結グループ内での外部監査費用、事業税、法人所得税など運営コストが増加し、効果的な対応策が出せないのである。

B. 「人材配置」

本社から人材を送り込むこと自体は問題ないが、あまりに現地の実情からかけ離れた人選がされているケースが見られる。現地企業に根付いてコントロール出来る人材には程遠く、結局現地従業員との連携が取れないことが多い。自社で進出した子会社でもこの状況に陥るケースが多く、ましてや、M&Aで買収した海外子会社を牛耳るには、それ以上のハードルがあり、手つかずになっているケースがよく見られる。結局現地の社員の懐に入り込める人材がいないので、このハードルをいかに超えるか課題に対する解決策がなく、結局コーポレート側や事業部側のガバナンスが効きにくい状態に陥る。グローバル人事政策からして検討・実施しなければならない。

C. 「シナジー強化支援」

積極的なシナジー効果を追求する体制が出来ていないケースである。初期の投資を検討して意思決定する部門はあるものの、その後の経営統合化チームが存在しないのである。このため、単に出身が出資元の事業部という条件だけでクリアした人材が、その後の経営統合、所謂Post Merger Integration(PMI)に従事することになる。外部リソースを活用することもあるが、そのPMI部隊とタスクを分け合って、オーナーシップを持って実行するということが起きない。このため、何とか乗り切ろうと躍起になる現地の少数のメンバーが、ボトムアップで活動することになりかねない。買収された側の現地従業員は、このような方針無き改善活動を目の当たりにすることで、自ずと溝が深まり、ガバナンスが利かせられない状況を作ってしまいかねないのである。そればかりか、ここぞとばかりに現地側は本国の指示に合わない理由付けを見つけて、滔々と説明し、ガバナンスが行使できない状況に至ってしまう。これを回避するためにも、PMI専門家チームがしっかりレール設計し、展開することが重要である。

D. 「本国報告」

本国の要求に即して、現地が報告できないことだが、そもそもその報告ができる支援を本国側で施していないことも原因のひとつである。典型的な例は、制度および管理会計上の報告が挙げられる。現地の決算期は、12月末締めで、それから監査後の数値を日本の3月の決算に間に合うことが出来る。四半期の予測数値においても3か月先の数値ではなく、実績を報告することで今まで問題がなかった。今後は本国と連動させていくことから、IFRS要件に限らず、実績だけを報告するのではなく、本当の予測を要求されるようになってきている。一方で現地では、売上や営業利益を分析する担当者や、それらを管理会計の面からまとめあげる財務分析担当者など配置されていない企業も多い。情報収集や分析ためのツールも十分装備されておらず、現地では、人海戦術で凌いでいるのだ。更に拍車をかけるように、不定型の度重なる本国からの問い合わせには、結局どんなことでも優先度を上げて対応しなければならない傾向があり、相当な作業コストが掛かっている。現地の従業員はすでに見切りをつけ、対応には駐在員だけが四苦八苦している企業が多いのである。結局は本国の要望通りの報告は出来ず、結果的に本国のガバナンスが確立していない状況が変わらないのである。


上記の中でも、RSSCの実現、更にGSSCの実現において、ガバナンスモデルをサポートする仕組み作りで苦労するのが、「本部への報告」である。そもそも報告を受ける本部のあるべき機能が定義されていないことが多く、通常本社の出資元の事業部が形式的に報告を受けている。このため、だれが旗振りをして、中長期的な展望に基づいて、解決策を実施していくか明確になっていないのである。実装のためのシステム化には、投資が必要だが、子会社のためと判断すると、そのシステムの受益者は誰か、という本来課題とすべきことではないことにも奔走される。子会社だけで、要員を確保し、セルフファンディングで実装するには投資枠にも限度があり、なかなか実行には至らない。推進体制一つ作るにも、本国側の支援がなければ、実現はしない。実現しない場合、不具合を被るのは、現地の子会社だけではないのだが。このように、ガバナンスが効いていない体制で解決していくには、検討自体が右往左往するため、本国側と現地(あるいは地域統括)の間にガバナンスを自ら構築していく専任体制が必要である。


日系企業では、なぜ初期段階でSSCやRSSCに必要な地域統括が検討できていなかったのであろうか。実現を困難にしている要因の一つに、すでに海外に進出した子会社の数がかなりあることが言える。外資系企業が日本に進出するのは、新市場への参入だが、日系企業がアジアに進出して来たのは、生産管理上コスト低減を目的としたケースが既にあった。このため、生産工程を移植さえすれば目標を達成できるので、敢えてグループ ガバナンスを考慮しなくても問題がなかった経緯がある。


一旦生産プロセスを移転できれば、当然現地でも営業活動を行い、収益拡大を目指すが、その際、そもそも日本の市場を目指していた製品の価格や原価は、現地市場に合わず、現地企業と競合するには、かなりの価格競争力が必要で即実行には移れない場合がある。製品原価だけでなく、極力現地の駐在員を含めた人件費や業務システムなどを含むオペレーションコスト(最終的に原価に配賦するコスト)を低減しなければならない。この時点でシェアード化ということに直面するものの、実行のためのカギであるガバナンスについては、ぼんやりとした実体のない課題に留まっていて、検討されない。現地の限られた要員では、実は課題が重過ぎて、対処できない状況に陥るのである。すでに立上げメンバーや初期段階の投資枠は底をついていることも多い。最も困難な状況は、M&Aを行った現地の仕組みが、自社のコーポレートや事業部の仕組みよりも確立されているケースである。本国流に仕組みを変えようとしても、メリットを説明出来ず、現地の従業員から同意が得られない事例も散見される。


3.フロント業務の集約化

地域統括は、SSCから派生していることもあり、本来的には、コストセンターであるが、必ずしもコストセンターとして機能すれば、進展の限界を迎えるわけではない。特にGSSCでは、バックオフィス機能だけにとどまらず、フロント業務においてもその例が見られる。地域統括部門において、製品やサービスを販売することは想定されていないが、収益向上のための業務機能も多分に盛り込まれる。経理、人事、物流、総務、法務、内部監査、システムなどの所謂バックオフィス業務だけを対象が絞られておらず、フロントに近いマーケティング、プロモーション、広報といった業務領域も含んで成功しているケースが多いのである。この地域統括部門の検討には、SSCで検討したメンバーに加えて、フロント側のメンバーとの協業も必要である。傾向としては、コングロマリットというよりも比較的事業形態が同様のグローバル企業において、拡充しつつある。

例えば、製品がグローバルに展開される業界では、その宣伝を各国のメディアに載せる施策もあれば、Webなどグローバルで同様に展開することで、製品イメージをローカル色も加味しつつ世界共通で効果的に伝えられるように連携している。(図E:グローバル製品の共通イメージ)。フロント系の業務機能においては、国や地域ごとの顧客の特性を捉えつつも、標準化することで効果を追求するための組織がある。地域統括の傘下に位置する「ビジネス サービス サテライト」という組織である。 この組織は、地域統括単位や国単位で存在せず、製品や顧客のカテゴリー単位で効果を発揮する。従来は、カントリーマネージャーであったローカル企業の社長や製品の事業部で業務を遂行してきたが、グローバル対応が進展するうえで、フロント系の業務機能に実質的な権限が委譲され、効果を発揮していく組織である。ビジネス サービス サテライトは、組織としては概して小規模である。物理的には各国に偏在するものの、地域統括や本国との連携を担うことも必要となり、この機能群をGSSCでは盛り込んでいるケースがよく見られる。このため、GSSCは単なるグローバルSSCというより、グローバルでのビジネス サービス(GBS)として確立している企業もある。公表されている例としては、P&GのGBSが挙げられる。(図F: グローバル ビジネス サービスの事例) 海外でも顧客像が見え、収益を追求していく場合、単に制度や管理会計面を充実させるだけでは、競合に直ぐに追い付かれる。これまでは線で連携していた受注から生産、更に出荷というようなバリューチェーンは自ずと複雑になっていく。その状況に対して、グローバルで標準化された仕組みを確立し、効果を追求しなければならない。これらの進化は留まることを知らないのは、そのような効率を追求した仕組みを競合他社が実装している以上、いずれは競争力が低下し、グローバル コンペティションに勝ち残れないからである。しかも、そのサイクルが昨今特に短くなりつつある。グローバル展開する日系企業は、これまで国内で競合していた企業ではなく、グローバルに展開する企業との競争である。海外売上が50%近くにシフトしつつある企業は、特にグローバル コンペティションに晒されるため、いつまでも本国の事業部の流儀に囚われていては、方針がぶれるリスクがある。海外の現場から上がってくる生の情報を的確にさばききれなければ、顧客の志向や需要動向も把握できない。ローカルの需要もグローバルのトレンドも把握しつつ、あらゆる地域で舵取りを行っていくことが重要である。

日系企業がグローバルに勝ち抜くには、拡散している市場とのスピード感にズレが無く、有益な情報を経営側に管理会計のフォーマットにまとめ、制度上の翻訳を行い、様々なレベルの経営者・管理者が適宜意思決定できる粒度の情報をタイムリーに活用していかなければならないのである。GSSC(GBS)が最終的に目指す姿は、「森も木も見続ける」仕組みの実現である。


おわりに

GBSを目指すグローバル企業は、常に他社を出し抜くため、次のステージに進むべく切磋琢磨し、幾つかの企業がそれを実装してきている。つまり、①SSC、②RSSC、③GSSCの次のステージである④統合ビジネス サービス(Integrated Business Service:IBS)である。現在、ハイパフォーマンスの実現を掲げるアクセンチュアでは、IBSモデル実現を提供すべく、順次ご支援している。IBSでは、GBSに比べて、より顧客志向が強まるとともに、戦略の実践に障壁となる組織に風穴を開け、予算配分も柔軟に捉え、グローバル プロセス オーナーを定義し、さらなるコスト低減と付加価値の実現を支援していくのである。

ガバナンスを構築し展開するのは、比較的アメリカ企業が得意とするところだが、IBSを目指しているのは、実は欧州の企業が目立つ点は、興味深い。なぜなら、本来日本企業はどちらかというとアメリカ企業よりも欧州の企業にコーポレートカルチャーが似ていたからだ。

本年度からでも日本の企業において、IBSに興味を持たれ、他社に先駆け戦略的に実現を目指す企業も現れる筈と期待している。なぜなら、現在アジアでは、SSCを飛ばしてRSSCから巻き返しを行っている日系企業が多いが、同様にIBSから始められる企業も業界とビジネスケース次第で、可能だと考えるからである。

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