松本 雅利(まつもと・まさとし)
リソース・グローバル・プロフェッショナル・ジャパン株式会社
コンサルタント
米国ゲーム会社の日本法人を皮切りに、比較的外国人の揺さぶりに弱い小さな外資系企業と、仏系自動車会社など比較的大きな外資系でキャリアを積んできた。今はRGP所属のコンサルタントとして日々の 業務にあたるとともに、ビジネスパーソンのSNS、LinkedInクリエーターとして情報発信もおこなっている。
売れるもの、売れないもの
インドのタタ自動車のことを知ったのは2008年の報道でした。1台20万円のコンパクトカーが飛ぶように売れているというのです。操作性もシンプルで、余計なものはいっさい付いておらず、とにかく乗って移動ができる。安い車をインドの人は求めていたのです。「これ、最高だよ!」といろいろな機能を付けても、富裕層には売れますが、庶民には売れないわけです。
筆者もそれに近い、逆の経験をしたことがあります。米国系ゲーム会社に勤務していたときのことです。円高のおかげで商品を日本のゲーム会社で製造し、海外の本社や関係会社に売ることを生業にしていたのですが、それを国内でも売ることになったのです。為替が大きく動き、日本で生産するメリットがなくなり、海外で売るゲームソフトは海外で作るようになったのですが、それでは日本法人の存在意義がなくなってしまいます。そこで、それまでも細々と売っていた米国本社のゲームを、日本国内でも大々的に売ることになったのです。
レッスルマニア、大リーグ、NBAバスケットボール、米国アニメゲーム…といっても、ゲームのタイトルも日本人に馴染みの薄いものばかりです。大リーグにしても、イチローはおろか野茂さえもまだ活躍していなかったころです。むしろ日本のプロ野球は長嶋元監督も当時現役選手で巨人をリードしていました。でも、米国の本社は「米国で売れるんだから日本でも売れなきゃおかしい」の論理で押してきます。今にして思えば、BtoCの会社に勤めたのはこのゲーム会社が最初で最後でしたが、自国の論理の正当性を誇示する姿勢には辟易したものです。これは勝ち組になった会社や国にとって、当然といえば当然のことかもしれません。当時、NHKもこの会社の技術力の高さを番組で取り上げていました。米国本社が、米国で売れていたので日本で売れないわけがないと思ったわけです。
でも日本では売れなかったのです。売上が出せるようになったのは、国内のゲーム企画制作会社からゲームを買い取り、売るようになってからでした。やはり、日本でどんなゲームが売れるかは日本人が一番よく知っています。
余談ですが、米国は英国から独立してできた国ですが、クリケットは一般的ではないし、ラグビーやサッカーもあまりポピュラーではありません。その一方で、米国でポピュラーなスポーツといえば、野球、アメリカンフットボール、バスケットボールです。それは、米国が常に一番になることを目指すために、新たに地位を勝ち取ることのできるスポーツがポピュラーになり、すでに強い国、強いチームの存在するスポーツは選択の対象ではないということのようです。最初から一番を目指すお国柄なのです。だから、米国一番の論理を押しつけるのでしょう。
こうした考えの会社は早晩、日本市場から撤退しています。たとえば、バーガーキングの商品は、サイズも巨大で、値段もレストランのステーキ並で、まさに、これぞ米国バーガーというメニュー構成でしたが、撤退してしまいました。明らかに、マクドナルドのセットメニューの格安路線に負けたんだろうなと思っています。でも、日本で復活してからは、ハンバーガーは米国サイズより多少小さくなっているような気もしますし、クーポンで格安セットを出すようになりました。また、一度撤退したウェンディーズも、サントリー傘下のファーストキッチンとタッグを組むなどして、再上陸を果たしました。
マクドナルドがウケた理由
では、同じハンバーガーでも、なぜマクドナルドは上陸に成功して日本市場に根を下ろしたのか。これは日本マクドナルド創業者の藤田氏の考え方が、同社のDNAに深く浸透し、ハンバーガーというよりマクドナルドを日本人の嗜好にぴたりとハマらせたことが大きいと思います。
たとえば、米国で「マクドナルド」といっても通じません。発音は「マクダーナル」です。でも、こんな呼び方では日本人の耳に残りません。それをローマ字読みで通し、日本人の耳に残るようにしたのです。「マクダーナル」では、いかにも米国風ですが、「マクドナルド」の発音が無国籍風で身近に感じさせました。それにより、アメリカの食べ物を嫌がる層も取り込みました。また、1号店を銀座4丁目の三越店内にしたのは、銀座が日本を代表する高級なイメージの繁華街で、そこに出店することで企業イメージ、マクドナルドハンバーガーのイメージを決定づけたのです。
そしてドナルドというキャラクターを使うことによって、子供をターゲットにすることで家族が揃ってマクドナルドに行き、ハンバーガーを頬張ります。そしてその子供は大きくなってもハンバーガーを食べるわけです。
でも、それだけではダメなのです。米国本社からの 5%のロイヤルティ要求を跳ね返し、2%まで押し戻したのです。確かに儲かっても利益をすべて米国本社に持っていかれては話になりません。これでは、単なる米国本社の日本営業所に過ぎなくなってしまいます。
市場の特徴をしっかりと捉え、合わせた販売戦略を採り、利益を出して、存続するには何をすればいいかを考えるのです。撤退した会社はやはりこうした視点が欠落していたということでしょう。もちろん、私が在籍していたゲーム会社は、日本法人はもちろん、親会社も破産してしまいました。 ところが、日本人の場合は完璧主義を求め、石橋を叩き過ぎるほど叩いても渡らないところがあります。技術はあるのにもかかわらず、です。結局のところ、内向き志向になり内需重視になりました。内需ならば熟知しているからです。
中国のやり方
最近発見したことがあります。それは中国企業のやり方です。 私はiPhoneユーザーですが、アップル製のヘッドホンは高いので、アマゾンなどで評価の高く、お得感のあるイヤホンを買いました。メーカーの住所は中国深圳でした。レビューを見ると確かに、不満の書き込みも多いのですが、おそらく企業はそこから顧客のニーズを汲み上げて、次の商品開発につなげていくんだろうな、と思いました。なぜならレスポンスが早く、次々とバージョンを変えて商品を出してきていたからです。そして、最近、家でネット配信の映画を大きなスクリーンで見るために、プロジェクターを購入したのですが、それも中国内蒙古の企業のものです。これもアマゾン経由で購入したのですが、アマゾンの商品のサイトに質問を書き込むと翌日には回答が出ます。おそらく自動翻訳で作ったと思われる日本語でたどたどしい回答でしたが、誠意を感じました。ここも実際のユーザーからの不満や改善要望を次の涸品開発に結びつけていると思われ、頻繁に商品がアップデートされていました。少々バグがあってもまず市場に出してみて、少しずつ改善を加えてバージョンをアップしていくという戦略でしょう。
同じ商品ひとつとっても国によって嗜好は違います。日本人は、米国のものなら何でも受け入れると思ったら大間違いなのです。 ジグソーパズルでハマるピースがあればピタッとハマるし、ハマらないなら、ハマるようにピースの形を変えるのです。
やはり主張が大事
マーケティングの話のようになってきましたが、ここでもこれまで2回の連載で書いてきたように、外国人に対しては主張をしなければならないのです。これをこれだけ売れといわれても、ちゃんと論拠を持って主張し、論理立って説得すれば、相手もこれに抗することはできません。反対に海外で商品を売る場合は、何が求められているかをじっくりと調べます。これが大事なんだなあと思ったわけです。英語は、相手に自分をわからせるための手段なのです。
【参考文献】藤田田『ユダヤの商法』、『勝てば官軍』(いずれもKKペストセラーズ)
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